【 シリーズ全般の感想 】
このシリーズは『シャーロック・ホームズ』ではなく、『シャーロック・ホームズが生み出された背景と、そのモデルとなった博士の物語』です。
モデルとなったベル博士がホームズで、ドイルがワトスンというような形で事件に取り組むという話になっています。
ですから、ホームズ物のようにすっきり解決する物ではなく、観賞後に寂しさや虚しさを感じる物が多いというのを覚悟して観て下さい。
こういう暗い出来事の果てに、希望をもたらすホームズ物語は生まれた! という流れだから仕方ないのかもしれませんが、人によっては見た後は気力ゲージが下がることが予想されます。
――ハッピーエンド好きな私は下がりまくりました。

面白いことは面白いのですが、観賞後すっきりしないんです。
このモヤッと感には覚えがある……神津恭助シリーズを見た後の感覚に似ている!
同じ様に依頼人が死んでしまう話でも、金田一耕助シリーズには遺された人たちや金田一に、何処かしら救われる物を感じるのに比べて、神津シリーズは消失感の方が際だってもの悲しい気分になる、あの感じに。
両シリーズをご存じ無い方には全く分からない比喩ですみません。
勧善懲悪物にしろとは言いませんが、救いとか希望の光をもうちょっと恵んではいただけないか、と思わず懇願してしまいます。

ホームズファンにはとても面白い出来事、――例えばベル博士が死体をむち打っていたり、懐中時計を見て持ち主を推理する場面などがあってとても良いと思うのですが、その行動が原作のホームズの言動そのままで、何のひねりもないというのはちょっと寂しいです。
これなら素直に正典の映像化をして欲しかったなぁ。
雰囲気や衣装などがとても良かったので、この感じでホームズが見られたら最高だっただろうと思います。

ちなみにベル博士を演じるイアン・リチャードソンは、1983年に二度シャーロック・ホームズを演じています。
その時は結構“人当たりの良いホームズ”だったので、今回のベル博士のようなキビキビハキハキした態度でのホームズが見てみたかったです。


※コナン・ドイルが主人公と言うことで完全な実話かとお思いになる方がいらっしゃるかも知れませんが、あくまでも史実を元にしたフィクションですのでお間違いなく。


【 ドクター・ベルの推理教室 】 Dr. Bell and Mr. Doyle
 2000/英国/日本語・英語・字幕・吹き替えDVD/カラー/117分

 制作:イアン・マッデン 演出:ポール・シード 脚本:デビッド・ピリー
 ジョセフ・ベル博士・・・イアン・リチャードソン
 コナン・ドイル・・・・・・・チャールズ・エドワーズ  ロビン・レイン(学生時代)
【 概要 】
『シャーロック・ホームズ』以外の小説を書きたかったコナン・ドイルは、ライヘンバッハの滝壺にホームズを葬りシリーズを終わらせた。そのことで出版社のストランド社には抗議が殺到していた。
考え直すよう進められても、ドイルは「潮時だ」と取り合わず、ホームズを生み出すきっかけとなった出来事に思いをはせる。


エディンバラの大学の医学生であった頃、ドイルは患者を見ただけで出身地や職業を当てるというベル博士の授業で「そんなことが診察に必要とは思えない」と、忌憚の無い意見を述べる。ベル博士はそんなドイルを何故か気に入り、助手に任命する。
風変わりなベル博士の学校外での行動に興味を持ったドイルは後を付け、ベル博士が警察の検死をしている事を知り、そちらの助手も務めるようになる。

当時、大学は改正された法律を基に女性を受け入れてはいたが、大半の生徒や教授は「女性は勉強などせず家庭を守るべき」という古い慣習にこだわり、女学生に対する酷い嫌がらせが横行していた。
ドイルは男装してまで授業を受けようと努力する、エルスペスという女学生と知り合い、授業を受けられなかった彼女が実験室に忍び込んで勉強をする手伝いをする内、お互いに惹かれ合うようになる。
彼女の姉は大学の出資者であるヘンリー・カーライル卿に嫁いでいたが、カーライル卿もエルスペスに理解を示すどころか女性の大学進出を強固に反対しており、エルスペスとカーライル卿の仲は険悪だった。

そんなエルスペスの元に、脅迫の手紙や切り取られた耳が届く。ベル博士とドイルは捜査に乗り出すが、過ぎた嫌がらせと思われた事件は、無関係と思われた浮浪者や娼婦の変死事件まで絡む大事件だった。

【 感想 】
これは『コナンドイルの事件簿』全4話のシリーズの第1話で、名探偵のホームズが生み出されるきっかけとなった事件と、そのモデルとなった博士とコナン・ドイルの出会い編です。医師となったドイルの回想という形で、若い学生ドイルが主役です。
とても暗く寂しい結末にどんよりとなります。ドイル青年の不幸っぷりが涙を誘います。

ホームズシリーズでは貴族や金持ちの事件が主なので、あまり書かれていませんが当時の貧しい人達の暮らしや権利の低さ、女性の扱われ方は酷い物だったそうで、そういう人達が被害者になっている時は、警察はほとんど捜査をしないし、被害者達も権力者には全く逆らわず口をつぐむ。と、そんな状況下で事件は起こりますので、ベル博士やドイルの捜査はなかなか進まずもどかしいこと甚だしいです。

冷静沈着なベル博士に比べ、ドイル青年は未熟者というか血気盛んというか、すぐに短気を起こして事態を悪化させてくれます。
さらに頭に血が上るとベル博士を「あんた」呼ばわりする口の悪さ。でも、これは日本語訳のせいもあると思うんです。英語だと「あんた」も「あなた」もYOUですもんね。
でも、私には分からない英語的なニュアンスで生意気なしゃべり方をしているのかもしれませんし……この辺自分の語学力のなさが悔やまれます。


話としては一見バラバラに見える殺人や悪質ないたずら程度の事件が、最後に一つに収束するのは凄いんですが、犯人の行動が一貫性に欠けているせいですっきりしません。
犯人の動機が分かりづらい。というか、そんな理由、理由になるかボケ! という理由が一応は有るんですが、それも最初と最後の殺人には関係ないし……。犯人がベル博士とドイルに挑戦したという事なのかな? まあ、人殺しの考える事なんて理解できない方がいいんだから、いいのかな?
謎が残ります。

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【 惨劇の森 】 The Patient's Eyes
 2000/英国/日本語・英語・字幕・吹き替えDVD/カラー/89分

 制作:アリソン・ジャクソン 演出:ティム・フィウェル 脚本:デビッド・ピリー
 ジョセフ・ベル博士・・・イアン・リチャードソン
 コナン・ドイル・・・・・・・チャールズ・エドワーズ
【 概要 】
無事に大学を卒業し医師となったドイルは、元学友のターナヴァインの誘いを受け、ポーツマスの彼の診療所に外科医として勤めることにした。
しかし、儲け主義で貧しい患者から金を搾り取りろくに治療もしないターナヴァインのやり口に嫌気がさし、彼の元を離れて自分で開業する。
目の不調を訴えて診療所に来ていたヘザーという女性患者は、ターナヴァインが不調は妄想だと決めつけてろくな治療をしてくれなかったことから、ドイルの診療所に移ったが、次の誕生日に両親の莫大な遺産を受け継ぐヘザーの財産に目を付けていたターナヴァインはそのことを逆恨みし、ドイルに盗みの濡れ衣を着せる。

そこに、ドイルからのヘザーの不思議な症状を綴った手紙に興味を引かれてやってきたベル博士が現れ、ターナヴァインの嘘を見破りドイルの窮地を救う。

ヘザーの目の不調は、彼女が1人で自転車で森を走っているとフードを被った男が追いかけて来るのが見えるが、他の誰もその男を見たことがないというもので、彼女自身もそれが自分の被害妄想ではないかと疑っていた。
彼女はイアン・コートレーという凶悪殺人犯に、目の前で両親を殺されるという辛い経験をし、そのショックで事件後しばらく精神を病み病院に入れられていたからだ。
遺産を管理している叔父は、ヘザーが精神的に落ち着くために自分の知り合いの教師のグリンウェルと結婚をしなければ、また病院に入れると彼女に迫る。

ドイルは、自分自身すら信じることの出来なかったヘザーの話を信じ、その男が妄想でなく実在すると証明するため、森を見張って彼女の後を付ける男の姿を確認するが、すぐに見失ってしまう。
ヘザーは、彼女を信じ、そして自分と同じように大切な何かを失う辛さを知っているドイルに信頼を寄せる。
ドイルもまた、大切な物を守りきれなかった過去を悔やみ、今度こそヘザーを守ろうとベル博士と共に謎のフードの男の姿を追う。
しかし、ドイルはフードの男に襲われて逃げられ、森を捜査していた青年は遺体で発見され、静かな森は惨劇の舞台へと変わっていく。

【 感想 】
今回もまたドイル青年受難の事件で、傷心癒えぬドイル君の傷口を開いて塩を塗りこむような悲惨なお話でした。
でも、ベル博士のお陰で結果的には助かってるから良かった。ベル博士が真相を暴いてくれていなければドイルは……案外幸せに暮らせたかも知れない……。知らなければ幸せでいられるって事もあるしなぁ、なんて考えさせられる辺り、『ギリシャ語通訳』っぽいラストでした。

第1話では学生だったドイルが、今回はまだ髭は生やしていないものの大人っぽくなり、ベル博士とのコンビがますますホームズとワトスンっぽい物になっているのが嬉しい。
ドイルは相変わらず頭に血が上りやすく、ベル博士にくってかかることはあるものの、患者には親身で誠実ないいお医者さんになり、ベル博士も検死の傍ら警察の調査に協力し、警察内で有名人物として一目置かれる存在になっています。
今回で、ほぼ正典のホームズとワトスンの原形が形作られたという感じです。

話は『寂しい自転車乗り』を連想させる事件に、数年前に起きた凶悪殺人犯による資産家夫妻殺害事件が絡み、結構複雑です。
前回に引き続き世間の女性の扱われ方の悪さが出てきますが、今回は女性も負けてはいないというか、逆襲につっ走るというか……その強さは間違っとるだろという強さを見せつけてくれます。
終盤の展開に、金田一耕助の『黒猫亭事件』を思い出させるものが有って、金田一好きとしては面白かったです。犯人が利用した相手に拉致される辺り
原作ネタ有り、どんでん返し有りでなかなか見応えのあるお話でした。

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【 死者の声 】 The Photographer's Chair
 2000/英国/日本語・英語・字幕・吹き替えDVD/カラー/89分

 監督:アリソン・ジャクソン
 脚本:ポール・ビリング
 ジョセフ・ベル博士・・・イアン・リチャードソン
 コナン・ドイル・・・・・・・チャールズ・エドワーズ
【 概要 】
愛する人を失った悲しみが忘れられず、夜の街を彷徨い怪しげな催眠術師の見せ物小屋に入るドイル。
その帰り道、エルスペスが絡まれているのを見て助けに入るが、助けた女性はエルスペスとはまるきり似ておらず、似ているように見えたのはドイルの幻覚だったのだ。
結局、ドイルは乱闘騒ぎを起こしたとして警察に逮捕される。
しかし、なじみの警部が便宜を図ってくれたお陰で事なきを得、体調不良で来られないと言う検死官の医師の代わりに検死を手伝う事になった。

遺体は何を使用したかは不明だが窒息死させられており、顔は破損させられていたが、衣服から身元が判明した。
その後、さらに同じように原因不明の方法で窒息させられた遺体が見つかり、ドイルと共にベル博士が検死に乗り出す。

まったく共通点のなさそうなふたりの持ち物から、同じ見せ物小屋のチケットの半券が見つかった。
ふたりは同じ降霊術師に傾倒していたのだ。そして、2番目の被害者の兄もまた降霊を信じており、妹殺害の疑いを掛けられた彼は妹の霊を降霊して犯人を聞き出すと言う。
ペテンだと疑いながら同席したドイルの前に、被害者ではなく意外な人物の霊が現れる。

【 感想 】
ドイル君の古傷が膿んで熱を持ってきたのか、ついに幻覚に幻聴まで聞こえるように……。いえいえ、これは精神的な問題じゃなく、開発中の薬の臨床実験の副作用によるものなんでしょう。
患者さんに飲ませる薬を自ら試飲して効果を試そうとする、患者思いのドイル君のドクターっぷりが素敵です。
とはいえ、古傷を引きずりすぎのドイル君。ベル博士はドイル君に、事件よりもいい女性を紹介してあげた方がいいんじゃないかと思ったりしました。

そんな心の傷を誤魔化すためか、ドイル君は今回小説を新聞に投稿していたりもしています。ますますホームズの作者のコナン・ドイルっぽくなってまいりました。

でも今回はコナン・ドイルが後年スピチュアル的な物に惹かれるようになるきっかけのような降霊術の話がメインで、ホームズ色が薄くてちょっと寂しいです。
ドイル君も活躍の場が少ないし、ベル博士も不覚を取っちゃったりするし、地味ーなお話でした。
でも、ハドスン夫人の原形のような、しっかり者で肝っ玉母さん的な素敵な下宿屋の女将さんが出てくるのが嬉しかった。
ベル博士がズカズカ下宿に上がり込んでくるのを、不審者と勘違いして水差しで撃退しようとするのが素敵です。

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【 謎のミイラ 】 The Kingdom of Bone
 2000/英国/日本語・英語・字幕・吹き替えDVD/カラー/88分

 監督:アリソン・ジャクソン
 脚本:スティーブン・ギャラガー
 ジョセフ・ベル博士・・・イアン・リチャードソン
 コナン・ドイル・・・・・・・チャールズ・エドワーズ
【 概要 】
ドイルの友人の博物館館長プロクターが寄付金集めのために、手に入れたミイラを解体して死因を探るショーを行おうとし、その為にドイルのかつての大学の教師で解剖学の権威の教授と、ベル博士が呼び出される。
しかし、“若くして無くなった女王”と銘打たれたそのミイラの麻布の中から現れたのは、死後数週間の男性の遺体だった。
ショーは中止され、館長のプロクターは寄付を集めるどころか莫大な負債を負うことになった。

誰が何のためにわざわざ遺体にそんな偽造を施したのか? その場に居合わせたベル博士が検死をすることになったが、身元を示す物がすべて奪われた遺体からは、さしものベル博士も凶器の形状と被害者の職業程度のことしか読み取れなかった。

ドイルはショーを見物に来ていて、同情から寄付を申し出た美術商ドノヴァンの美しい娘に興味を惹かれる。
ドノヴァンは事件に興味を持ち、ベル博士とドイルを食事に誘う。そこでベル博士は事件に関連する重要な発見をし、それを確かめるべくもう一度遺体を検死するがその場で襲われ、さらに犯人を目撃したドイルは連れ去られてしまう。
そこでドイルは犯人達の恐ろしい計画を知ることに。

不可解な一体の死体から始まった事件は、イギリス全土を震撼させる大事件へと発展する。

【 感想 】
いつもながらのドイル君の女運の悪さには涙が出そうでしたが、それにもめげないドイル君の打たれ強さというか懲りなさはなかなかのものでした。
ナイスファイトだドイル君。

今回は推理ものとして悪く言えば型にはまったありがちな展開でしたが、爆発シーンや、捕まって見つからないようにこっそり逃げるドキドキなシーンなんかもあって、なかなか面白かったです。爆発はちょっと予算不足? な感じでしたがご愛敬。

ただ、アイルランドとイギリスの複雑な歴史背景に詳しくない日本人にはぴんと来ない部分がある話だと思いました。
ほとんど知らない私でも何となくは分かったので、そんなにたいした問題ではないですが。時代や問題の背景を知っていたらもっと楽しめたんだろうな。不勉強が悔やまれます。

ドイル君は患者が少ないからとはいえ、どこにでも診察に行く熱心なお医者さんとして頑張ってます。
ドイルがボクシングが得意で、船医として乗り込んだ船で荒くれの海の男達にとけ込むためにボクシングで親交を深めた、というエピソードが元になっているようなシーンもあります。
しかしミイラを解体するショーを開いて寄付集めってすごい発想です。
でも「ミイラの布を集めて繊維を取ろう」なんてアホな企業もあったそうで、昔は金になりそうなら何でもしようとしたんだな〜と感心しました。もちろん計画は採算が取れずに失敗したそうですが。

それと今回はドイルの弟なんてマスコットキャラ的少年が出てきたりして可愛いです。そしてますます過保護なパパモードでドイル君を構ってしまうベル博士がいい感じです。
もうドイル君のことを息子のように思っているんだなー、とほのぼのしました。

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